ヘッドホン
HP-DX1000/DX700
開発担当者の声 HP-DX1000 STEREO HEADPHONES
コンセプト ダイレクトマウント ウッドハウジング ワイドレンジドライバーユニット アコースティックレンズ
製品トップ 開発担当者の声 アクセサリー 主な仕様
     
 
Message
<開発担当者より>

見栄えだけのウッドハウジングなら
いらないと思った。

HP-DX1000のスタートは2003年の夏くらいでしょうか。
当社のヘッドホンにHP-DX3という機種があるのですが、発売してかなり時間が経っており、その後継機をつくろうというのがそもそもの始まりでした。ただ、とことんこだわってやっていくうちに、後継機というより次元の異なるものになりましたが。
まず、市場に出ている高級ヘッドホンと評されるものを集め、調べました。その多くがハウジングに無垢材を使っていました。楽器や高級スピーカーのキャビネットでも使用されているように、天然無垢の木材には優れた音響特性があります。ですからハウジングに無垢材を用いることは理にかなっていると思いました。
その一方で、それらヘッドホンを分解してみて、木ならではの良さ、減衰特性等をもっとフルに引き出す構造や方法があるのではないか、と強く感じたのです。高級ヘッドホンには所有する喜び、たとえば手触りや木目の美しさといった質感や見栄えも求められます。しかしながらそれらは付加的要素であり、本質ではないでしょう。人が高級ヘッドホンに求めるのは何よりも音です。飛び抜けていい音がする、これに尽きます。その本質を徹底して高めようと思いました。

耳元で躍動を伝えるスピーカーそのものとして
ヘッドホンを誠実に設計してみよう。

ヘッドホンとスピーカーは、音の伝わり方や取り扱うエネルギー量に違いがあります。しかしながら、原音を忠実に再生するという原点も、動作原理も両者は全く同じです。ならば、ヘッドホンをつくるというという発想ではなく、耳元で躍動を伝えるスピーカーそのものとして設計したとき、今までにない素晴らしいものができるのではないか、と仮説を立てました。ビクターが今日まで培ってきたスピーカー作りのノウハウや手法を注ぎ込んだとき、それは一体どんなものになるのか、と。その気付きがHP-DX1000の本当のスタートラインだったかもしれません。ただ、それからが大変でした。

求めたのは、ヘッドホンのパワーで
キャビネットのように程よく鳴ってくれるハウジング。

スピーカー発想のヘッドホンをつくる。そのコンセプトは早期に固まったのですが、ではキャビネットにあたるハウジングにどの木を用いるのがベストか。これがまず大変でした。
音量をあるレベルまで上げないとスピーカーはいい音がしません。小音量ではキャビネットが響かない、つまり鳴っていないからといえます。鳴り過ぎはいけませんが、一方で鳴ってくれないと面白くも何ともない無機質な音になる。ですから、ヘッドホンで音楽を聴く場合の一般的な音量で、理想的な音で鳴ってくれる木を選別する必要がありました。
楽器やスピーカーキャビネットには密度の高い木が適していると一般に言われています。ただ、ヘッドホンとスピーカーでは取り扱うエネルギー量が違います。つまり、スピーカーや楽器では良く鳴ってくれる木も、ヘッドホンのパワーでは効果的に鳴ってくれるとは限らないということです。言い換えるなら、私たちが求めていたハウジング素材とは、ヘッドホンのパワーでもスピーカーキャビネットのように程よく鳴ってくれる木、ということになります。

この音に自信があるから、
名前より実質を選んだ。
ハウジング試作品。その数は有に50を超える。

また、重さの問題もあります。鳴りだけでなく、長時間のリスニングにも人を疲れさせない「軽さ」がヘッドホンには同時に求められます。無垢の天然木が持つ音響的資質と、ヘッドホンとして求められる機能が最大限に発揮される素材として、私たちは最終的にラジアタパイン材を自信を持って選択したわけですが、もちろんそれにたどり着くまでに試作に試作を重ねました。たとえば楽器の銘木と言われるものはほとんどといっていいくらい試しています。
ただ、誤解されている方もいるようなのですが、一つの楽器に使われる木が一種類ということはほとんどないのです。アコースティックギター一つにしても、トップとサイドはまず違いますし、ブリッジやネック、フィンガーボードも、それぞれに違う木を使っている場合がほとんどといえます。ですから、ギターと同じ木を使っているから音がいい、とは厳密には言い切れません。イメージとしてはそう断じた方がわかりやすいのですが、嘘ではないけれども正しくはないわけです。
形状もいろいろ工夫してみました。同じ形状でも厚さも変えてみたり…。また、加工精度や品質安定性の問題も大きなテーマでした。実は宮大工さんに削っていただく、というプランもあったのです。著名な方に依頼して試作品もつくってみました。素晴らしい出来でした。ですが、品質面で一定のものができる保証がなく、そのつどチューニングを施さなければならないことからNGになりました。製品として、ユーザーと音の約束が交わせないということですね。

ダイレクトマウントか、否か。
ぜひ聴き比べてほしい。

ハウジングは試行錯誤がありました。でもマウント方式は当初から決めていました。
音の純度を高めるには、不要な振動や共鳴を排除すること。そうしなければ音は振動で逃げてしまう。熱エネルギーに変わってしまう…。だから、スピーカーは頑丈なキャビネットにドライバーを強固に固定しています。HP-DX1000では、スピーカーと同じようにドライバーユニットをキャビネットにスクリューでしっかり固定させています。
この結果、音が全然違います。本物の低音が出ている、と実感できるはずです。この点は、ぜひ聴き比べてほしいところですね。ドライバーユニットは4点止めです。当初3点止めでしたが、調整を重ねた結果、最終的に4点に落ち着きました。

ヘッドホンの音は好きではないという人は、
どこに不満があったのだろうか?

いい音とはどんな音か? その定義によって変わってくる話だとは思いますが、一般的には「生の演奏」が一番の理想だという方が多いのではないでしょうか。スピーカーの設計でもシアターシステムの設計でも、生の演奏の臨場感にどう肉薄できるか。それは一つの大きなテーマです。
ある空間があって、向こう側に音源があり、空気をとおして音がこちら側に伝わってくる。それが音楽というものの自然な聴こえ方であり、聴き方であると思います。一方ヘッドホンは、2つの耳の真横から音が入って頭の頂点で鳴る、という感じです。ヘッドホンの音が好きではないという人は、その聴こえ方に違和感を覚えるのでしょう。それは動作原理が同じでも、拡声器の延長として進化したスピーカーと、イヤホンの延長として進化したヘッドホンの宿命的な違いであり、それぞれに良さがあるわけですから致し方ない問題とも言えます。
ただ、あたかもスピーカーシステムで聴いているような心地よい響きに、ヘッドホンも近づくことはできると思っていますし、それを目指したのがHP-DX1000です。
ヒントとなったのは、かつて、ある高級スピーカーで用いられていた音響レンズです。「蜂の巣」といえば、わかる人にはそのものズバリだと思います。ある種のインピーダンス変換装置を取り付けることで音を拡散させ、そこに自然な奥行き感や広がり感を醸し出せるはずだと考えたのです。
その試みは大正解でした。形状や穴径、その間隔等をいろいろ工夫した結果、音のピークを分割したり滑らかにする効果が出ています。このアコースティックレンズを通した音は違和感なく耳に到達します。それは聴感にも現れていますし、物理的にも実証できたのが特許申請につながったのだと思います。ダイレクトマウントもそうですが、このアコースティックレンズも本当に聴き比べてほしいですね。実感できる違いですから。

原音探究。
すべてはただ一つのテーマのために。

HP-DX1000はヘッドホンの一つの革新であり、音に関して言えば原音探究という原点をもう一度極めた機種だと思っています。様々な新技術を採用しましたが、一番難しかったのは音づくりそのものです。
とくに振動板の形状が非常に苦労しました。最終的に厚さが25ミクロンのものになったのですが、エッジ部分のところの形状をコンマ1単位で動かすと表情ががらっと変わってしまう。音色も変わってしまう…。ここが一番繊細で微妙なところでした。それだけに技術者の腕の見せ所でもあったわけですが。材料選びのときに、ああこのフィルムはいい音がするなあと思っても、形状を変え、成形してみるとまったく違う表情になってしまう。ここが非常に苦労しました。でも結果として本当に満足のいく商品に仕上げることができました。
HP-DX1000で一番気に入っている部分ですか? もちろん音です。1機種に2年間という時間をかけて、素材を吟味し、形状を吟味し、ドライバーユニットからマウント方法まで徹底的に妥協せずパーフェクトにやった。それらすべてはただ一つ、いい音のためです。今まで世の中にあったヘッドホンでは再生できなかった音が出ます。それはたとえばフルオーケストラを聴くときやRockのドラム音などで如実に実感できるはずです。好きな音源で、是非試してほしいと思います。