開発者インタビュー

探究を積み重ね、ひたすら原音の探究をめざす。HA-FXZシリーズ開発裏話。

3つのユニットと長さ30mmのダクトを
いかにコンパクトに収めるかが課題。

商品化は、主に田村さんがご担当されたそうですが。

三浦そうです。ここから先は田村が苦しむ羽目になりました。(笑)

田村基本構造が決まったので、デザイン担当と一緒に具体的な検討を始めました。いちばんの課題は、この長いダクトをどうやって収めるかです。
サブウーハー用のユニットもできるだけ大きな振動板を使って低音域を出したかったので、耳に装着可能な限界の直径8.8mmのユニットを採用することにしました。サイズの大きなユニットがツインシステムユニットの後ろ側にくるので、それだけでも装着性が悪くなります。それをどう解決するかが課題でした。

音の課題はクリアしても、この長いダクトをどう収めるかという悩ましい課題が残ったのですね。

田村はい、30mmの長さがあるダクトは、ユニットの周囲にぐるりと巻くのがいちばん良さそうでした。しかし、ダクトの径が細いので使用する材質を検討しました。細いチューブは、医療用のシリコンチューブか注射器の針のようなものしかありませんでした。ダクトの内径をつぶさずに、どう曲げるかも大きな課題でした。穴がなければ、力でグニャっと曲げることができるのですが、穴が開いているので、中が変形したり、つぶれたりする。そうすると音が出なくなってしまいます。

三浦素材は、最終的にシリコンではなくステンレスにしました。それには2つの理由があります。一つがサイズ的なことで、シリコンの場合は肉厚が必要なため、ダクト外径が大きくなるのでインナーイヤーヘッドホン全体のサイズも大きくなってしまいます。できるだけサイズは小さく押さえたかった。もう一つが製造上の問題で、シリコンだと組み立てるときにダクトが曲がって内径がつぶれてしまう可能性があります。その点も考慮して、加工は難しいですが、あえてステンレス素材に挑戦しました。生産工場から、「こんなものできるわけない!」と突っ返されたのを何度も現場に出向いてお願いして実現することができました。

他にはどんな点が困難だったのでしょう?

田村ケルトン方式は、ユニットの前面を密閉する必要があるんです。どうやってユニットを密閉するかにも頭を悩ませました。一方で、部品点数はあまり多くしたくないということもあります。部品点数が多くなると重量も増し、耳への装着感に響きます。こちらを立てればあちらが立たずという状態でしたね。(笑)
最初は、外装だけで密閉して組み立てたかったのですが、音の質を上げるには、金属製の素材を使ってサブウーハーを密閉する必要がありました。三浦に相談したら、「そこは金属使わないとだめだよ!」ということで金属部品を使うことにしました。また、サブウーハーに使うユニットの径が大きく、振動板の動きも大きいので、それを押さえ込むためにも金属製の部品が必要でした。

装着感が優れていなければ
商品にならない。

やっと商品化への道が見えてきたのですね。

田村はい、ここまでくると、今度はたくさんの部品をどうやって組み立てるかが課題となってきました。耳に収まるサイズに、装着感を犠牲にせずに3つのドライバーユニットを収めなければなりません。

一体どうやって決めていったのですか?

田村光造形でサンプルを作り、周囲のメンバーに実際に装着してもらい意見を聞いていきました。20種類ぐらいの組合せを試し、最終的にツインシステムユニットが耳に対して正面を向き、サブウーハーのユニットが垂直方向を向く配置に決めました。

そうした試行錯誤を重ねて、この特徴的な形状の商品が誕生したのですね。

三浦3つのユニットが小さなケースに収まっていて、ダクトまで付いているというのは、なかなか他にはないと思います。
低音域をカットすることで、中高音域のよさはそのまま出しておいて、それにプラスアルファで重低音だけをちゃんと単独で強く出す。解像度がありながら、低音もしっかり出てくる自信作です。開発スタッフの間でもコンセプトに合うまで、デザインにはこだわりました。

確かに形状も性能も画期的です。

三浦実は、ツインシステムユニットもFXT90のものとはまったく別物です。最初はFXT90のツインシステムユニットを使って実験したんですが、やはり低音域がしっかり出てくると中音域がエネルギー的に負けてしまうんですね。そのままではだめだ、ということでほとんどの部品を設計し直しました。

田村もともと、もっと中高音域の解像度を高めた音にしようと考えていたのでツインシステムユニットの振動板に採用しているカーボンナノチューブの薄膜化・軽量化を図り、FXT90に比べて20%ほど軽量化しています。
ネオジウムマグネットも磁力を強化して、反応よく音を出せるようにしました。磁力を強化すると低音域の方は少し締まってくるんですが、サブウーハーで低音域は出せるので、ツインシステムユニット側では少し締まっても問題ありません。
そして、ツインシステムユニットの振動板の動きに負けないように、メタルユニットベースも銅材から、より比重の重い真鍮に変更しました。また、FXT90ではメタルユニットベースをプレス加工で作っているのですが、FXZシリーズでは、切削加工で作っています。FTX90と見た目は変わりませんが、まったく違うものに進化しているんです。

企画開発から商品化、そして量産まで。
開発者の苦労はつきない。

田村さんは、開発段階だけでなく生産ラインにのせてからもご苦労が多かったとお聞きしますが。

田村生産の準備段階はもちろん、生産が始まってからはずっと生産ラインに立会い、品質のばらつきがないように確認にあたりました。部品点数が多い製品なので、生産スタッフも大変苦労した商品です。

三浦開発するまでの悩みもありますが、商品化するまでも一苦労。その後、生産ラインにのせて、納期を守るのも実は大変なんです。

女性ジャズボーカル好きとUKロック好きが開発した、
驚愕のインナーイヤーヘッドホン。

ところでお二人は、どんな音楽を聴きながら音の調整をしているのですか?

三浦正式に音を調整するときは、いろいろなジャンルの音楽を聴きます。ちゃんと重低音がでているかどうかを確かめるにはクラッシックのフルオーケストラやパイプオルガンの教会音楽を聴きます。普段は、女性ジャズボーカルが好きで聴いています。個人的にはソフィー・ミルマンというアーティストが好きで、FXZシリーズを開発するときにもよく聴いていましたね。 ベースとドラムのキックとボーカル、ピアノ、そのバランスを調整しています。ベースやキックの重低音が入ってきても、ボーカルが埋もれずにちゃんと聞こえるように調整しています。

田村私がよく聴いているのはUKロックです。FXZシリーズ開発中はオアシスはよく聴きましたね。その他には、ビクタースタジオのサウンドチェック用の音源ですね。

繊細な女性ボーカルもパワフルなロックも、FXZシリーズはいい音で聴けるというわけですね。

田村FXZシリーズを手にすることがあったら、ぜひ普段聴いている音楽を聴いて欲しいですね。きっと、今までと違った音に感じるはずです。こんなところに、こんな音が隠れていたんだ!と驚くはずです。

JVCインナーイヤーヘッドホンの進化は、今後も止まらない。

三浦FXZシリーズは、ただ3つのドライバーユニットを使ったのではなく、技術的にも、聴感上もいろいろな工夫をしています。ストリームダクトの開発でサブウーハーの周波数特性を100Hzでカットオフすることができたのがいちばんのキーポイントでした。現時点でできること、考えられることはすべてやりました。ただ、これが100%かと言われると、まだまだかもしれません。インナーイヤーヘッドホンは歴史が浅く、開発途上です。まだまだ開発の余地があると思っています。

これからのご活躍にも期待しています。ありがとうございました。

(聞き手:FZXシリーズスペシャルサイト編集部)

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