ポータブルヘッドホンアンプ SU-AX7

そもそも“ポータブルアンプ”とは、どのようなものですか。

ざっくり言うと、iPodやiPhoneなどのポータブルプレーヤーと接続して、より良い音で聴いていただくための「持ち運べるアンプ」です。ヘッドホンやプレーヤーのポテンシャルを最大限に引き出すための機器、といったところでしょうか。一般的には“ポタアン”の愛称で浸透しています。

“ポタアン”の価格は、5千円程度から10万円前後のものまで幅広いようですが、音質は大きく違うんですか。

必ずしも価格に比例する訳ではありませんが、それぞれ特徴を持っていると言えます。その中から、お客様の好みの音のアンプを選んでいただくことになりますね。安価なポタアンも当然効果はありますが、「ポタアンをつけているとやっぱり違うなぁ」と実感していただくためには、それなりのクオリティが必要です。

ちなみに今回の『SU-AX7』は、どんな位置づけなんですか。

サウンドの方向性としてはニュートラルだと言えます。欲張りな言い方すると「初めての方から、コアなオーディオファンの方まで、どなたでもご満足いただける優等生なポタアン」といったところですね。『SU-AX7』は、その中でもさらにワンランク上の上質なポタアンを目指し開発を進めました。

なるほど。それでは今回『SU-AX7』を作ろうと思ったきっかけは何だったんですか。

ポータブルプレーヤーの進化に伴い、お客様のヘッドホンに対する興味は日に日に高まっています。先日都内で開催されたヘッドホンのイベントも、入場制限が行われたほどの大盛況でした。
JVCもこれまで数多くのヘッドホンやイヤホンをリリースし、ありがたいことに沢山のお客様からご好評をいただいています。だからこそ「ヘッドホンやイヤホンを買ってくださったお客様に、より良い音を楽しんでいただくためには我々は何をできるだろう」と考え、そこから『SU-AX7』の開発構想がはじまりました。

具体的に目指したサウンドはどんなものですか。

『SU-AX7』は“ハイレゾ対応”を標榜しています。ハイレゾが持つ空気感をしっかり再現できるアンプを目指しました。結果として、ハイレゾソースだけでなくCDクオリティのソースであっても空気感をしっかりと感じられるところまで辿りつけました。

今話題の“ハイレゾ”ですね。ハイレゾ音源と今までの音源はどこが違うのか教えてください。

やっぱり“空気感”ですね。ハイレゾ以外の今までの音源はどうしても空間表現が荒削りなんです。その点、ハイレゾは音源の情報量がグッと増えたので、音の細やかさはもちろん、場の空気もよりリアルに再現できるようになりました。レコーディングスタジオで演奏している人の動きや息遣いまで聴こえてくるような表現力に大きな違いがあります。

他社製品と比較して『SU-AX7』の魅力はどこですか。

音質などはもちろんなんですが、幅広いデバイスと接続できるところもポイントですね。『SU-AX7』はiPod・iPhone・iPadをはじめ、他社のポータブルプレーヤー、現在お使いのハイレゾプレーヤー、パソコンなど、ほとんどの音楽デバイスと接続できます。「様々なデバイスと接続できる」ということを言い換えれば、「いろんなお客様に良い音で聴いてもらえる」ということなんです。

やはりJVC製品(ヘッドホン、イヤホンなど)との組み合わせが一番ですか。

もちろんJVC製品との相性は抜群です。だけど“JVCのためのポタアン”としては作っていません。どのブランドのヘッドホン、イヤホンで聴いてもその特徴を生かせるようにニュートラルにチューニングしています。できるだけ多くの方に、音楽の楽しさを知ってほしいという純粋な思いで作っています。

『SU-AX7』を開発する上で、一番こだわったポイントはどこですか。

一般的にポタアンは「回路基板を箱に収めただけ」といった形のものが多いのですが、そのクオリティで満足してはいけない、とオーディオメーカーの技術者として心がけていました。だからこそ「JVCブランドのウッドコーンやKENWOODブランドのKシリーズも含め、オーディオ機器で培ってきた高音質化のノウハウ(fホールシャーシなど)をすべて凝縮しよう」と決めたんです。

一番苦労したところはどこでしたか。

やっぱりサイズです。高級オーディオのスペックをすべて凝縮するわけですから。これだけの機能と音質を考えると、かなり小さく収まったと思います。

開発する上で、イメージされているユーザー像はあったんですか。

いわゆる“オーディオファン”の方だけではなく、“音楽ファン”の方を意識しました。音というよりも、音楽自体が好きな方。自分が好きな音楽を、とにかく良い音で聴きたいという方に使ってほしいと思っています。聴けば絶対満足してもらえると思っているので。ヘッドホンの専門店や量販店でも試聴できるところがあるので、是非一度試して欲しいですね。ちなみに、当社の丸の内ショールームでも試聴できます。

『SU-AX7』を使って、音楽をどのように楽しんでほしいですか。

ポータブルアンプということで当然外出先へ持ち運んで使っていただけることを想定していますが、パソコンや据え置きのオーディオと接続して家の中でも使ってほしいと思っています。そのために今回は光入力端子も搭載しています。
『SU-AX7』をきっかけに、オーディオの世界の楽しみ方を知ってもらえるといいですね。いいスーツを着ることでその人自身が磨かれていくように、良い音に触れることでより音楽の深みを知ってもらいたいです。

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注目されているハイレゾについて、技術者の美和さんはどのような可能性を感じていらっしゃいますか。

今現在、音楽流通のメインはCDですが、今後ますます配信へと移行し、ハイレゾ音源への需要も増えてくると思います。この流れが加速すると、お客様はより手軽に音楽ソースを入手できるようになり、音楽制作者はスタジオで仕上げたデータをそのままのクオリティでタイムラグなくお客様の元に届けられるようになります。
こういった流れを見ても、今後『SU-AX7』をはじめとしたハイレゾ対応機器が果たす役割は、どんどん大きくなってくると思っています。

商品開発上の音づくりでは、どんな楽曲を使うのですか。

色々あるんですが、一番ニュートラルな確認材料としてアニメのサントラを使います。音が良いんですが、決して良すぎる訳でもない。もちろん良い音源でも試すんですが、良い音ばかりを基準にしていると幅広い音源に対応したチューニングができないんですよね。

プライベートではどんな音楽を聴かれるんですか。

プライベートでもやはりサントラを聴く機会が多いですね。サントラって実は音をいじり過ぎていないところがいいんですよ。楽器の素直な音が聞けるというか。いわゆる売れ線の曲なんかは、安い機器でもそれなりに聴けるように音圧を上げすぎていて、音の抑揚が無いんです。何気なく聴くと良い音だなって思えるんですが、いい機器で聴くと「う~ん」となってしまうものが多かったりします(笑)。

通勤中も音楽はよく聴くのですか。

もちろん聴くこともあるんですが、仕事柄耳を休める必要もあるので、ほどほどにですね。ちなみに、電車に乗るときはモーターがついている車両と連結器の近くには絶対に乗らないようにしています。モーターの音や金属がきしむ音がどうしても気になってしまうんですよ。仕事の際、すべての音をフラットに聴けるよう、何かあったときに備えていつも耳栓は持ち歩いています。ただ、測定してみると特別耳がいいわけではないんですけどね(笑)。

やはり耳のケアは大切にされているんですね。

疲れているときは耳も聴こえづらくなるので、すぐに寝るようにしています。どの仕事も同じだと思いますが、技術者も体調管理がなにより大切なんです。

音作りをする上で、一番気をつけていることはなんですか。

一言で言うと「空気感」ですね。たとえヘッドホンで聴いても、スピーカーで聴いているような空気感を感じられれば、音楽の楽しみ方はもっと深みを増すと思うので。あと、ヘッドホンは高域を際立たせたり低音を強調したりといろんな音作りができますが、アンプを特徴的な音に設定してしまうと機器の組み合わせによって音の得手不得手ができてしまいます。ですので、アンプはできるだけニュートラルなサウンドに徹底して、好き・嫌いなくヘッドホンのポテンシャルを最大限に引き出せるようチューニングすることを心がけています。『SU-AX7』もそうですが、なにより「幅広いお客様に良い音で聴いてほしい」という思いを大切にしたいんです。

アンプにおける“好き・嫌い”とは具体的にどんなものですか。

既存のポタアンの中には、鳴りっぷりというか「低音ドンドン!」みたいな特定の音を強調したものがあります。 日本メーカーのポタアンは、“真面目”というかあまり特定の音を強調したりしない物が多いのですが、『SU-AX7』はその中でも最もニュートラルな部類に入るといっても過言ではないと思います。あくまで私たちは、音を好みに近づけるのはヘッドホンの役割で、アンプはヘッドホンのポテンシャルを最大に引き出す機器だと考えるからです。

最後に、 “究極の音”を一言で表すと何になりますか。

やっぱり弊社の理念でもある“原音探究”に辿り着きますね。原音もいろんな捉え方があると思いますが、やっぱりアーティストやスタジオエンジニアが「こういう音を届けたい」という思いを、再生する側としてもできるだけそのままお客様に届けたいと思っています。

貴重なお話をたくさんありがとうございました。

聞き手:浦本 慎太郎

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