「祈りのあとに」/ふるいち やすし監督 主演:小林 愛 × 高﨑 哉海
モナコ国際映画祭で2度の受賞歴を誇る映像作家
最新短編映画を全編GY-LS300CHで撮影
※ 4K画質は対応ディスプレイでご覧ください。画質の調整はコントローラーの「設定」からできます。
映像作家・音楽家/ふるいち やすし氏 プロフィール
数々のサウンドトラックやアーティストへの楽曲提供等も行い、自身で脚本、監督、撮影から編集、音楽までもこなすマルチプレイヤー。企業VPやCM等の製作と平行して、年に何本もの自主制作作品を製作している。また、デジタル一眼ムービーのスペシャリストとして、『ビデオSALON』誌(玄光社)等にコラムを連載中。
< 作品歴 >
短編映画
「彩~aja」2012年モナコ国際映画祭。ベストオリジナルストーリー賞/
ベストシネマトグラファー賞/ベストオリジナルミュージック賞/ベストニューカマー賞(主演:笠原千尋)
「艶〜The color of love」2013年モナコ国際映画祭。最優秀アートフィルム賞
作曲
「UA『11』/紅い花」、「Karena Karen『格子越しの月』/麻痺」
公式ウェブサイト
「ルーラルアート+ふるいちやすしの日記」 http://ameblo.jp/loo-ral/
撮影レポート/ ふるいち やすし氏著
映画を撮るカメラマンの多くは自分のカメラを所有しない。理由の一つはシネカメラがひじょうに高価だということ。もう一つはプロジェクトのテーマによって使うカメラが決定されるために一つのカメラに固執しても仕方がないということ。だが読者の皆さんならお気付きだろう、今のビデオカメラはたとえ業務機であっても、頑張ればなんとか買える値段のものもあるし、また、そのカメラで劇場映画でも通用するクオリティの映像が撮れる。そしてたとえプロであっても次々に出てくるすべてのカメラを深く掘り下げて対応することは難しいし、ましてやプロでないのならそんなことを気にしているより、自分のカメラを深く掘り下げて使いこなしたほうが、絶対いい画が撮れるはずだ。
「深く掘り下げる」というのはそのカメラのセンサーやパラメーターの特性をしっかり理解し、望みの画を作り上げるということに尽きる。JVCから発売された4Kシネマカメラ、GY-LS300CHというのが久々にどこまでも掘り下げられそうな「深さ」を持ったカメラなので、それを使いながら私が普段やっている「掘り方」の一部を紹介してみよう。
今回、GY-LS300CHを撮るという機会があったのだが、まずはロケハン(現場の下見)の時に実際に本番で使うカメラを持って行った。これもカメラを所有していなければなかなかできないことだろう。そういうテスト撮影でじっくり画作りの試行錯誤をやっている内に、そのカメラの特性というのが目に染み込んでくる。
私はそういうことを通して、その作品の代表的なシーンになる場所で、基本になるトーンを決め、それを屋外用、室内用など、二つくらいをプログラムしておき本番に臨む。もちろん本番では光が変わっていることもあるし、役者の演技によって変えたくなることもあるが、これをベースにすることで作品に一貫性を持たせるトーンができ、よっぽどのことがない限り、あとは微調整で済むため、本番で画作りに費やす時間も短縮できる。
今のプロの現場では、ダイナミックレンジいっぱいに、とにかく安全に撮っておいて、画作りは編集スタジオの安定した環境で行うというのが主流になっていて、それはとても合理的な考えだと思う。
だが、多少の苦労やリスクを犯してでも、撮影現場で被写体にその場面の意図を写し込み、その美しさに心を震わせながら撮るということの楽しさは犠牲にできない。特に色彩感とディテールは後でデジタルで処理することが難しいこともあると思うので、ぜひ現場で作っておきたいものだ。
色彩感というのはコントラスト、絞り、ガンマなどがすべて関係してくるものなので、単純に彩度だけでコントロールするものではない。特に私はデジタル的に強調された彩度を嫌うため、暗部の調整を念入りにし、彩度というパラメーターはかなり下げた状態で自然な色を出す努力をする。
ディテール(シャープネス)というものは明部と暗部の間に輪郭線を引くという漫画のようなもので、まだビデオカメラがグズグズの画しか撮なかった頃の遺物だと私は考えているので、真っ先に限りなくゼロにする。これを一旦付けてしまうと、後処理ではまず取り除けないからだ。正直に言うと、4Kという鮮明過ぎる画像は、CMやPVにはいいかもしれないが、映画という長尺の作品では疲れてしまうと感じている。なのでこのような質感のコントロールはしっかりとやっておきたいし、それを追い込むためのLS300CHのパラメーターの種類やレンジは、間違いなくトップクラスだ。
また、マウントこそマイクロフォーサーズだが、センサーはスーパー35のサイズであり、今回のようにレデューサーを付ければ魅力的なクラシックレンズのトーンをほぼフルサイズで楽しむことも可能だ。やっと4Kカメラにもここまで掘り下げる価値のあるシネカメラが出て来てくれたかと思うととても嬉しい。また、HD撮影では50M/YUV422/60pで2枚のSDHCカードにデュアル収録できるので、4Kを使わないとしても、ひじょうに魅力的なカメラだと言える。
今回の調整の一端をお伝えすると、まず自然な色を出すために、カラーゲインを下げる。一見矛盾しているようだが、暗部を締めれば色の印象は上がる。それはデジタル処理で持ち上げた彩度とはまったく違う色彩感だ。明るいところで見るテレビと暗いところで見る映画とは基本的に暗部の使い方が大きく違う。ナイーブな調整ができるようにしておこう。