参加者:
聞き手:岡 英史 氏(ジャーナリスト、プロカメラマン)
得意分野は舞台撮影及びアクションスポーツ全般、最近ではVPやグラビア等ENGへの守備範囲も広い。撮影以外にも新機材の技術原稿を執筆するジャーナリスト活動を展開。
掲載コラム:PRONEWS、ビデオサロン等
―国内では、昨年の「InterBEE2018」で大々的なお披露目になったと思いますが、
“PRONEWS”のInterBEE2018特集企画の1つである「Inter BEE 2018の歩き方.tv」のオフィシャルカメラとして使用させていただき、現在販売されているENGカメラとしては“ずば抜けてよい”と感想を持ちました。はじめに、CONNECTEDCAM「GY-HC900」の商品企画のコンセプトを教えてください。
<大橋>
ネットワークに対応カメラとしては、2002年にDVカメラレコーダー「GY-DV300」を発売しました。SD画質ですが、IPベースでのライブストリーミングに対応しました。以来15年以上IPベースのライブストリーミングのワークフローやソリューションを提供してきました。通信インフラの発達を背景に2012年には、公衆回線を利用したライブストリーミングやファイル転送が可能な「GY-HM650」を発売し、BBC(British Broadcasting Corporation/英国放送協会)に600台以上導入されました。
そして、今回、ネットワーク接続の即時性、信頼性を高め、“高画質、高品質でつながる”を次世代のコンセプトに、撮影現場が求める運用コストの低減、ENG系コストを削減する “CONNECTEDCAM” 2/3インチHDメモリーカードカメラレコーダー 「GY-HC900」を第一弾として発売しました。
高画質、高品質でつながる”次世代コンセプト
“CONNECTEDCAM”の商品企画責任者
プロジェクト・マネジメント部 プロジェクト1G
グループ長 大橋謙一
―BBCへの導入は大きな話題になりました。
<大橋>
BBCへ導入は、取材用カメラの入れ替えの話があり、商品企画や技術のメンバーがユーザーにはりついて、ユーザーの必要な機能をヒアリングし、一つひとつ作りこんでいくという地道な活動を徹底的にやりました。
―なるほど。そのネットワーク機能を進化させて、昨年10月に発売されたCONNECTEDCAM「GY-HC900」ですが、初めて本体を見たときの印象は、ボディデザインに一貫性があった「GY-HM700/HM800」シリーズから一気にデザインが変わりました。
<谷藤>
HC900のデザインを始めるにあたり、特に“次世代”ということを意識しました。
“HM700の高画質表現であった鏡筒との連続性を意識した構成から、世代が進んだことをどのように表現するか”“信頼性の確保、デジタルネットワークと高画質性能の融合”“レンズから直進する光のイメージはそのままに、より進化した表現”などを意識しながらデザインを進めました。
ブランドエクスペリエンススタジオ プロジェクトリーダー 谷藤修士(左から1番目)
―個人的に好きだった丸い光る十字キーがなくなりました。あれがJVCカメラのシンボル的存在でしたが。
<谷藤>
これがあるだけでJVCのデザインと認識されるので、残すべきかどうか最初は悩みました。結果、十字キーがマストなのではなく、CONNECTEDCAMとして、お客様にとって使いやすい操作性を重視したデザインを優先しました。また、JVCカメラデザインのアイデンティティを継承する高画質イメージの表現として、レンズから本体に繋がっていく光の方向性を共通の造形テーマにしています。その上で今回デザインするにあたり、特に「信頼性」と「接続性」を重点に置きました。JVCショルダー型カメラの特徴としては高さが低いという点もあると思っていますが、これは、担いだときにも右側が見えるという機能性も意識しています。
―たしかに撮影チームでも、右側の視界が感じられないカメラが多いなか、右側の視覚が見えるのがよいと評判でした。無駄な飾りがなく、メカニカルに感じられる、前後のバランスもあると思いますが、私が感じたことと同じことを仰いました。
液晶モニターは、可変が流行りのようですが、あえて固定にした理由は何ですか?
<谷藤>
顔を当てる場所の近くに可動部が無い方が構えたときに違和感がありませんし、機能的には固定であった方が堅牢性も高いです。使用状況から表示の見易さにも配慮しています。また、ここを含めて外部につながるコネクタ部分やアンテナ部分も、レンズからの光学ラインを意識して造形することで、今回のデザインにまとめています。
―SDカードスロットは反対側にありますが、カメラマン的には、すべて左側で操作したいという要望もあると思いますが。
<谷藤>
設計上の理由もありますが、容量の大きいSDカードは、一度カードを挿したらそんなに抜き差ししないだろうということと、CONNECTEDCAMというコンセプトと合わせて総合的に判断しました。
―B4マウントのカメラとしては、コンパクトすぎるという意見はありませんか。ショートズームみたいな大きなレンズを装着するとそちらが目立ってしまいます。
<谷藤>
長年カメラのデザインに関わってきて、やはり“小さい”ことが、撮影時の取り回しなど使う人にとってメリットがあると考えています。企画部門や技術部門とも出来るだけ小さいカメラに挑戦していこうと、いつも話合っています。
―次にカメラ性能についてですが、レンズマウントは2/3インチを選択しました。現状ではいちばん明るいカメラですよね。
「GY-HC900」企画担当および商品開発責任者
プロジェクト・マネジメント部 プロジェクト1G兼技術本部
主席課長 鷲津博之
<鷲津>
はい。テレビ局にあるレンズ資産を生かせるというのがポイントです。カメラについては、プラットフォームを新開発、2/3型CMOSセンサー、B4レンズマウント採用し、F12、S/N 62dBの高感度、低ノイズを実現しました。HDカメラレコーダーとしては最後発になるので、他社カメラの性能を意識して、一番になろうという設計、開発を目指しました。
―それらが新しいプラットフォームで実現されているのですね。
<鷲津>
はい。10ビット 4:2:2の内部記録にも対応しました。
―HLGは、ビデオカメラではデフォルトになってくると思います。
<小林>
今回、HDRや広色域に対応するということで、プリズムも含めITU2020ベースに、カメラプロセスのダイナミックレンジを確保するためにBITの演算をかなり深いところまで計算し、今までのDSPを一新しました。また、暗部の階調表現から高輝度部のトーンマップまで改善し、さらにLED光源にも破綻がおきないように配慮しています。
HLGの採用に際しては、HLGの露出を決めやすいようにLCD/ビューファー出力にITU709への変換回路を搭載しました。
他社は“SDR GAIN”という言葉で変換ゲインを可変できる機能が備わっているものもありますが、同様の機能としてLCD/ビューファーメニューで709変換の100%の出力レベルを変えられるようにしています。
SDI2端子から 外部モニターにITU709変換した映像をVF画としても出力できます。
JLogは、「GY-LS300」と基本設計は同じですが、LS300のユーザー様からのフィードバックもいただき使い勝手を改善しました。
例えばITU709とJLogに感度差があったので、切り替えても同じ感度で撮影できるようにしました。
これまでのGYカメラシリーズのカメラプロセスを刷新
開発部 システム1G チーフ 小林敏秀
―それはすごいですね。もっと外に向けて発信するべき内容ですね。 さて、フォーマットですが、「GY-HM100/HM700」では、当初MOVファイルをベースとした仕様からバージョンアップでマルチフォーマットになり、大変珍しく注目していました。今回、AVCHDはなぜ搭載しなかったのですか?
「GY-HC900」ソフト開発を陣頭指揮
技術1部 ソフト1G長 松永義弘
<松永>
これからの世代ということでH.264とENG放送局では主流で使用されているMPEG2を基本ベースにしました。
ENG、10ビット4:2:2と謳うためにも、AVCHD規格は8ビット4:2:0で、オーディオもPCMではなく圧縮が主流で、TS特有の扱いにくさもあり、AVCHD搭載を見送りました。
また,ビデオだけでなくオーディオも高音質な24ビット対応できるため,差別化要素となります。
さらにファイルラッパーも、MOV、MXF、MP4など多彩な記録フォーマットを採用し、先行機種同様にマルチフォーマット対応しております。
―CONNECTEDCAMのキモであるIPベースのリターンビデオはどのような状況でしょうか?
<古川>
本日は下記のシステムでデモを見ていただきます。
中継側にCONNECTEDCAM「GY-HC900」とIP伝送中継機PEPLINK社「SFE-CAM」をVマウントで背負わせています。「SFE-CAM」には通常4枚のSIMが装着可能で、そのうち2回線をボンディングして(異なる信号を束ねて)送信します。スタジオ側の設定として、スタジオカメラとして、「GY-HM850」とデボンディングルーターPEPLINK社「BPL-210」とZixi対応デコーダー「MGW ACE Decoder」を使用、IPスイッチャーとしてSTREAMSTAR社「streamstar X4」で「GY-HC900」と「GY-HM850」の送出映像を切換します。リターンビデオとして「Live shell X」を使うイメージです。本日は準備の兼ね合いもあり一部で代替の製品を使っています。SIMは今回、IIJのdocomo回線網のSIM2枚を入れています。
システム構成概念図(CONNECTED CAMリターンビデオデモ)
<古川>
ご覧いただいているようにスタジオカメラのリターン映像は、約1.5~2秒、中継先はパケットロスを抑え、エラー訂正を行うクラウドサービス「Zixi」を通っていますが、約3~4秒でリターンビデオが可能です。目標としては、300〜500msecになるよう改善を進めたいと考えています。つまりテレビ会議で実際の会話レベルがこれにあたります。
―リターンのPinP子画面の大きさですが、1/4くらいにはなりませんか?また、リターンビデオのパターンはいくつありますか?
<鷲津>
PinPの子画面の大きさは1パターンです。
リターン映像は、ユーザーボタンに5パターン割りつけることができます。
―PinPですが、大きい方がベースの画角を切りやすいので、画面の1/4にして透過率を50%にするとかできないでしょうか?
<松永>
透過率についてはできないことはないですが、実際使い易いかどうかはわかりません。
―全画面とリターン映像をリターンボタンの長押しとかダブルクリックなどで、切り替えられと便利ですが、いかがでしょうか?
<松永>
検討します。
―CONNECTEDCAMのソリューションはどのようなことを想定していますか?
<古屋>
カメラ1台で一方向からYouTubeやFacebookへ配信ができるというこれまでからもう一段進めることができました。カメラとスタジオがIPでつながっていることで、いままでスタジオの中だけでやっていたことをIPライブリモートで外に持ち出すことができます。強力なネットワークで現場とスタジオの双方向のコミュニケーションができるようになります。また、中継車が出せない現場からの中継でもドッカブル型だとカメラ一体型になるので、中継機をリュック等で背負わなくても良いので取り回しも楽です。遅延に関しては、「streamstar」で一番遅いストリームに合わせて配信することも可能です。
<鷲津>
HC900で新しく採用したのは、現場のカメラマンの負担を減らすAUTO FTP転送です。ENGカメラはニュース素材という観点から即時性が求められます。事前に決めたカードスロットから記録したファイルをあらかじめ設定したFTPサーバーに自動で転送する機能で、カメラマンは撮影に集中でき、サブスタジオや編集室で待つディレクターやエディターにいち早くニュース素材を送ることが可能になります。
アンテナ部ですが、弊社独自のインターフェースで、前側にワイヤレス用途のユニスロット、後側のスロットは、マルチスロットになっており、昨年のNABでも参考展示しましたが、SSDへの記録だけでなく、将来の発展的な拡張に使えるような想定もしています。
―前と後ろの外形は同じに見えますが、まったく違うものなのですね。
早く現場とスタジオで実際に試してみたいですね。取り扱いは御社で良いですか?
<大橋>
取り扱いについては、営業部門で技適取得も含め検討を進めています。価格は、PEPLINK社のIP伝送機とデボンディングルーターで約100万円を想定しています。SIMプランについては、販売店やキャリアをご紹介することで対応したいと考えています。
―最後に次の展開ですが、第2弾としてハンドヘルドタイプの4Kカメラレコーダー「GY-HC550/500」を6月発売予定していますが、HC900の4Kバージョンは?
<大橋>
お客様の需要をみながら当社として、鋭意検討中です。私たちは日頃“GLASS to GLASS”と言っていますが、レンズからモニターまで、入口から出口までをソリューションとしてお客様に提供、拡充していきたいと考えています。CONNECTEDCAMのコンセプトはカメラだけではなく、システムを構成する周辺機器も対象になります。周辺機器としては、STREAMSTAR社のIPスイッチャー、PEPLINK社の伝送器、デコーダーなども含まれます。
―僕はワンマン撮影も多いので、大きなカメラだと一人ではぶつけたりするので、細心の注意を払わないといけません。いままでミドルレンジしか持っていけなかった現場もHC900なら持っていけます。最後に出てきただけあって画質とか、担ぎやすさとか、HDカメラとして完成度は高いです。しかし、CONNECTED(コネクテッド)してこそ真価を発揮するカメラなので、これとこれを買えばできるというセットでの提案が楽しみです。
本日は、ありがとうございました。
岡英史氏と「GY-HC900」開発メンバー