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アーカイブ情報

1978年から2009年にわたり日本ビクター(株)主催で開催された「東京ビデオフェスティバル」の情報です。

入賞作品の傾向と話題

1.若い感性と浪花女性のノリが全編に横溢『いまどきの21 歳の主張』(ビデオ大賞)
 昨年に続いて、今年も大阪の若い女性がビデオ大賞に輝きました。女子大生の作者は、最近嫌なことが続くと言いつつ、「世の中いいこともあれば悪いこともあり、プラスマイナスゼロ」と自分に言い聞かせることにした。身辺の出来事のシーンに、手書きのアニメやナレーションを重ね、つのる思いが語られていく。生活実感を若さと明るさ一杯の浪花女のノリで、テンポの良い映像作品にまとめ上げた傑作です。
 この作品について、審査委員の椎名誠氏は「感性が先に走ってそれだけで撮っているのか緻密に計算されているのかわからないが、(中略)いまTVFはこういう若い力が凄い」と、若い世代の活躍が目立った今回のTVF を象徴する作品と評価しています。
2.親子3 代の家族の絆を探し求めた『The Last chapter(最終章)』(ビデオ大賞)
 もう1本のビデオ大賞受賞作『The Last chapter(最終章) 』は、国際結婚の末、カナダの地に根を下ろして生きる「私」が、頑なだった日本の父との長い断絶に思いをはせる、海を隔てた親子3代の家族の物語。父が亡くなる前にまとめた回顧録の、短い最終章に家族のことが書かれていた。若い頃の私とは心が通うことのなかった父だったが、孫(私の娘)は受け入れてくれ、そこに家族の絆が生きていた。
今は私の心にも父の人生を祝福する準備ができ、最終章を閉じることができる。父を語ること、それは自分自身を見つめ直すことでもあった。「愛があるのはわかっていた。今、新しい章に橋がかかった」というラストの言葉が深く心に残る、重厚なノンフィクション作品です。

 審査委員の羽仁進氏は、「自分たちだけに固執することで、かえって“人間”というものの奇妙さが鮮やかに描き出された見事な作品」と讃えています。
3.教育現場の危機を浮き彫りした『学びの場が消えてゆく 夜間高校の教室から』(日本ビクター大賞)
 「TVF2008」には、ビデオの記録性とコミュニケーション機能が教育の現場にしっかりと根づき、さまざまに活用されていることを伺わせる作品や、教育のあり方を考える作品が多数応募され、入賞しました。その中から、日本の教育現場に起こっている問題に正面から問いを投げかけた『学びの場が消えてゆく〜夜間高校の教室から〜』が、日本ビクター大賞に選ばれました。統廃合に揺れる夜間定時制高校。
そこにはさまざまな事情をかかえながら、ハンディキャップを乗り越えようと頑張っている生徒たちがいる。そんな教育の場が今消滅の危機にあるという。ある夜間高校の教員の訴えに応え、同じ教師の目で現場の生の姿を追った。学校教育から外され居場所を失いつつある生徒たちの実情を描きながら、「学校とは何か」「学校には何が必要か」と教育の原点に問いかけるドキュメンタリー作品です。
 審査委員の高畑勳氏は講評の中で、「『学校とは何か』『学校には何が必要か』という具体的な今日的回答を示唆していて説得力がある」と述べています。
4.若者世代の活躍が目立つ。中学生制作の6 作品を含め、10代・20代で47作品が入賞
 今回も、前回以上に若い世代の活躍が目立ちました。中学校放送部など中学生の制作による作品が優秀作品賞、佳作合わせて6 作品入賞し、10代・20代では47作品が入賞と、全体の半数に迫る躍進を見せています。
 『忘れないで 』(杉並区立東原中学校・放送部・東京都/ 優秀作品賞)は、ハンセン病患者への偏見や差別を取り上げたドキュメンタリーで、その活動が、思いやりと人権尊重の大切さに共感する人の輪を広げていきました。『 映像詩 曽根干潟から 』(北九州市立曽根中学校・視聴覚放送部・福岡県/優秀作品賞)は、干潟に生きる生き物たちの姿から、人と自然との関わりや生態の変化、汚染悪化の原因へと迫り、鋭い問題提起を行いました。
 若者の注目作品として一例を挙げれば、『レジストレーション 』(佐藤誠矢・19歳・自営業・東京都/ 優秀作品賞)は、コンビニの万引き事件という一つの現象を5人の登場人物の視点から再構成するという、意表をついた短編ドラマ作品。『 蒲公英(タンポポ)の姉 』(坂元友介・22歳・学生・神奈川県/ 優秀作品賞)は、姉妹の心の動きを人形アニメーションで繊細に描き、「思春期の感覚を見事に捉えている力作」(審査委員・高畑氏)です。
 外国作品では、今回もアジアから若い世代の作品が多数寄せられ、海外から選ばれた11本の優秀作品のうち5本が、韓国、中国、香港の20代の若者の作品で占められました。
5.独自の感性と表現力、若い女性の台頭が顕著に。4年連続で20代女性がグランプリを受賞
 TVF では、2005年の第27回の『つぶつぶのひび 』(大木千恵子・当時24歳)から、第28回の『 羽包む 』(中井佐和子・当時23歳)、第29回の『 Plays the air. 』(内田セイコ・当時23歳)、そして今回の『 いまどきの21歳の主張 』(黒川優生・21歳)まで4回連続で20代の女性がビデオ大賞を受賞しました(2001年以降8回のうち6回、20代女性がビデオ大賞を受賞)。
 近年の文学界でも若い女性の文学賞受賞が目立ち話題になっていますが、ビデオ制作の分野でも女性台頭の傾向がますます顕著になっています。女性ならではの感受性や着眼が、ビデオ制作の分野で大きく花開き、新しい創作の舞台を広げつつあるといえそうです。
 今回もビデオ大賞作品をはじめ、外国人キャストによる英語劇をビデオの特殊効果を生かしながら独特のファンタジー作品に仕上げた『Hansel’s Moon Town 』(中平悠里・23歳・会社員・東京都/ 優秀作品賞)、インドの旅から持ち帰ったある食材の正体を調べる中で、インドの一面を覗いてみようと試みた『 印度倶楽部 』(阿久津万里・27歳・会社員・東京都/ 優秀作品賞)、自分と家族との関係、それぞれの存在を問い直し、自分を見つめ直す内面のドキュメンタリー『 ホウムルーム 』(アダチサオリ・23歳・学生・京都府/ 優秀作品賞)など、20代女性のフレッシュな才能が息づく作品が、佳作を含めて9本入賞しています。
6.シニア世代に趣味を超えた創作活動として拡がるビデオ制作
 若者の躍進の一方で、シニア世代も人生経験がにじむビデオ作品で多数入賞を果たしています(60歳以上の作者の作品18本が入賞。うち13本が70歳以上)。自由な時間を使って趣味のビデオ制作を楽しむシニアが確実に増加する中で、単に手軽な趣味というレベルを超えた、固有のテーマ性と、独自の創作意図を持った、作家魂あふれる労作が年々増えてきています。
 『田舎暮らしの真実は 』(藤井喜郎・69歳・無職・神奈川県/ 優秀作品賞)は、都会の生活を逃れて田舎暮らしをするのは決して容易いことではないと、ある熟年夫婦が苦労しながら掴んだ喜び、楽しみを、あるがままに淡々と紹介。『 やもめ男の物語り 』(宿谷昭之助・77歳・無職・石川県/ 佳作)は、年をとっても女性に戸惑い続ける男の心情を、遊び心を交えて綴った作品。『 ひとすじの道 』(舛岡正文・83歳・無職・愛媛県/ 佳作)は、豆腐作り50年の人生を振り返り、自分の手で設計した最新の豆腐製造自動化ラインに至るまでの苦労を綴った映像自分史の労作です。
 『別れ(第1話別れ、第2話残影) 』(織野正・91歳・無職・青森県/ 佳作)は、今回の応募者中最高齢での入賞。ペットの小鳥、ノッコとコロがそれぞれ寿命を全うし、作者と別離のときを迎えた映像をひもとき、自分にもやがて来る死の迎え方をしみじみ思う。悲しみと寂しさをそのまま表現した情感あふれる作品です。
7.自分を見つめ、家族を見つめるビデオ
 個人のビデオ作品にとって最も身近で大切な被写体はやはり「家族」。そして家族を見つめることが自分自身を見つめるきっかけになっているようです。今回の国内からの応募作品のテーマ別内訳を見ても、「自己・家族」が30%と最も多く、入賞作品の中にも、ビデオ大賞の『The Last chapter(最終章) 』をはじめ、家族が主要な題材、テーマになっている作品が数多く見られました。
 『59年ぶりの「再会」 』(可 越・34歳・会社員・東京都/ 優秀作品賞)は、幼いときに別れた父親との再会を求めて中国、日本、米国へと旅する母親の心情と家族の絆を描いたドキュメンタリー。『 暮れなずむ 』(岩下善二・63歳・自営業・広島県/ 佳作)は、一人で暮らす実家の母を思いやりながら、自分の60余年の人生を振り返るドキュメンタリー。『 終わらない戦争(三つの悲しみ、そして出会い) 』(Lim Jae-Wook・24歳・学生・韓国/ 優秀作品賞)は、朝鮮戦争で南北に分断された離散家族の、今も続く悲嘆の物語を伝えています。『絆 』(園部真人・58歳・教員・北海道/ 優秀作品賞)は、中学生の頃に荒れた生活を送った姉弟がその後立ち直って、家族を支えるまでに成長した跡を、姉弟の教師だった作者がたどり、家族の絆とは何かを見つめた作品です。
8.エンターテイメント志向も強まる。海外を中心に秀作多数
 近年の個人によるビデオソフト制作の傾向の一つとして、エンターテインメント志向の強まりを挙げることができます。これを反映して、今回、いわゆる“ドラマ”に分類される作品が33本入賞。全入賞作品の3分の1を占めました。特に海外作品では、入賞40作品中半数の20作品がドラマとなっています。いずれも個人やグループの個性が発揮され、テレビ番組のドラマにはない独特の味わいを持った作品ばかりです。  優秀作品賞を見ると、『Ladenhüter(店主)』(Felix Strienz ・24歳・映像作家・ドイツ)は、小さな店とその周辺の人々を、絶妙な演出で描いたハイレベルなドラマの秀作。『 DEMAIN LA VEILLE(明日は前日) 』(Julien Lecat/Sylvain Pioutaz・27/22歳・映像作家・フランス)は、すべて逆向きに動いている世界の中で、主人公の男が正しい方向に進もうとするシュールなドラマ。『 FENCE(フェンス) 』(AUNTIESAND UNCLES・マレーシア)は、隣家とのフェンス越しに二人の子供が手紙を交換しあい、友情を育むドラマ。『 足踏み 』(Seo Dong-Heon・26歳・学生・韓国)は、二人の男の生活ぶりから衝撃の結末に至るストーリーを通して、障害者の問題を鋭く投げかけるシリアスなドラマ。このように海外作品に力作が揃いました。  国内からも、前述の『 レジストレーション 』、『 Hansel’s Moon Town 』、『 ホウムルーム 』のほか、仲良しの女の子二人の友情と恋をめぐる短編ドラマ『 青空夜空に星空 』(勝又悠・26歳・アルバイト・神奈川県)など、ドラマの4作品が優秀作品賞を受賞しています。
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