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アーカイブ情報

1978年から2009年にわたり日本ビクター(株)主催で開催された「東京ビデオフェスティバル」の情報です。

入賞作品の傾向と話題

1.人間の生き様に尽きせぬ思いをこめて

 TVF最後のビデオ大賞に選ばれた『Melanie-Ich gehe meinen Weg(メラニー−自分の道を行く−)』は、一人の少女が豊かな感受性と確かな行動力で、盲目というハンディキャップを明るく前向きに乗り越えていく姿を、温かいまなざしで描いた作品です。そこには、主人公に力強く生きていって欲しいという切なる思いが込められ、同時に彼女を支える周りの人間たちと社会の包容力も映し出されていました。この大賞作品を筆頭に、今回も人の生き様にさまざまな思いを込めカメラを向けた“人間ドキュメント”の優れた作品が多数入賞しています。

 乳がんで乳房を切除した女性に、失った髪が生え始め、初めて自毛をカットするまでを追った『自毛デビュー』(加藤秀樹・埼玉県/優秀作品賞)、蚕からすべて手作業で絹をつむぎ、染め、織り上げる、日本の伝統的な養蚕と絹織物を一人で蘇らせたカナダ人のひたむきな生き方を紹介した『蚕道を極める』(藤井喜郎・神奈川県/優秀作品賞)、自分を変えたいと、耳の聞こえない大学の友人をビデオに撮るうちに、明るくふるまう友人の本当の心の内に気づいていく『クラリネットポルカ』(浅日香苗・滋賀県/優秀作品賞)なども、人間ドキュメントの代表作です。


2.家族への愛が作品に投影

 日本ビクター大賞に輝いた『共に行く道』は、ともに80 歳を超えた夫婦の「老々介護」の生活を、妻が丁寧に、そして気負うことなく記録した作品。夫婦二人で紅白歌合戦をするシーンでは、「涙と笑いが同時に溢れました。ここ数年で最高の作品と思いました」と、審査委員の椎名誠氏が絶賛する傑作です。淡々とした映像とナレーションから伝わる、愛情によって結ばれた二人の強い絆が、観る者を温かい気持ちにさせてくれます。

 今回も入賞作品の1割以上が、家族の愛や絆をテーマとした作品でした。代表作は、65年ぶりに故郷を訪れた母の様子を、娘の視線で綴った『遙かなる故郷』(石渡惠子・千葉県/優秀作品賞)、若い頃から距離を置いていた父を失った後、その存在の大きさを知った父への屈折した思いを、憤りを込めて映像にした『父との遠くて近い距離』(新堂順一・大阪府/優秀作品賞)、出稼ぎに行った両親を待ち続ける幼い姉弟が主人公に、家族の思いを描いた中国作品『紅い紙船』(Li jun cheng・中国/優秀作品賞)、ネット検索などを利用しながら自分の家族のルーツと横への広がりを発見していく、オランダ若者ペアの作品『My Big Happy Family(私の大家族)』(Joey Steffens、Severijn Heijmans・オランダ/優秀作品賞)などが挙げられます。


3.ビデオでイキイキ!充実のシニアライフ

 高齢化が進み、社会的にさまざまな問題が起きている一方で、自由な時間を有効活用して充実のシニアライフをエンジョイしている作品も入賞。高齢者がビデオを使いこなしています。

 71歳の元教師が、子どもの頃からの夢だった南極旅行を実現した旅紀行『夢に挑戦〜地球最大の秘境・南極〜』(有沢準一・北海道/佳作)、エベレスト登頂に挑戦した中高年登山家たちの姿を69歳の女性が記録した『じいちゃんはエベレストに』(舟橋栄子・東京都/優秀作品賞)、77歳の作者が、町医者と協力してX線撮影のカラー化に成功するという、とぼけた味のユーモアドラマ『天然色〜町医者が大病院建設〜』(青柳完治・群馬県/佳作)、また一方では、72歳の男性が、思わぬ大病にかかり死を覚悟した闘病生活の記録と、退院後に僧侶から諭され元気を回復するまでを描いた『とことん元気で』(松田治三・広島県/佳作)など、年輪を重ねた人生のベテランならではの、いずれ劣らぬ力作揃いです。


4.動かぬ事実の映像記録。ドキュメンタリーに秀作多数

 TVFの応募作品の中心は、作者がそれぞれの狙いや思いを込めて被写体にビデオカメラを向け記録したドキュメント作品です。社会的・歴史的なテーマをはらんだ活動や場所、そこでの人間の営みを記録し問いかける作品が多数入賞しました。

 日本の稲作の本来の姿を求めて、独自農法の研究・普及を進める活動を追った『本来の稲作 NPO法人民間稲作研究所の探求』(浅野光彦・茨城県/優秀作品賞)、山村の小学校の全校行事「炭焼き」の一部始終を記録した『ええのができるぜぇ〜』(岡野鏡子・愛媛県/優秀作品賞)、150年の歴史がある茅葺き屋根の再生を、若い職人が伝統技術を受け継ぎ5ヵ月をかけてやり遂げた記録『茅葺屋根再生』(岡本泰宏・兵庫県/佳作)をはじめ、海外からも、四川大地震に駆けつけた大学生6人が見た惨状と救助活動の記録『風にはためく』(Zhou Shilun・中国/佳作)、北京五輪を誇り高く迎え、意気上がる下町の人々を描いた『虹橋横丁のオリンピック』(Shan Zuolong・中国/佳作)などが入賞。

 レンズを向けた先の現実を、そのまま“動かぬ事実”として映像記録に刻印するビデオの力は、時に作者の意図を超えたメッセージを伝えることもあります。イラク戦争などで命を落とした兵士を埋葬する米アーリントン国立墓地の1日を、訪れる家族らへのインタビューを中心に記録し、優秀作品賞に選ばれた『Section 60:Arlington National Cemetery(セクション60:アーリントン国立墓地)』(Downtown Community Television Center・アメリカ/優秀作品賞)も、そのような作品の一つといえそうです。


5.高まるドラマ熱。入賞作品の4分の1を占める

 第31回は、ドラマ作品が多数入賞し、全体の約4分の1を占めたことも目立ちました。ドラマの範疇に入る作品数は27本で、うち17本が海外作品です。ドラマの優秀作品賞は今回、すべて海外作品によって占められました。海外のアマチュア作家たちの間でドラマ熱が高まっています。メッセージ性に富みシリアスなテーマを秘めたものから、エンターテインメントとしての高い完成度を持つものまで、バラエティあふれる作品が並びました。

 レジ袋廃止をモチーフに、好奇心いっぱいの少女が主人公を演じる物語で、環境問題の急速な展開を暗示した『接触点』(Gao Shuai・中国)、孤独な老人の悲しいいたずらを筋立てに、現代社会に潜む孤立感を描いた『心の鍵』(Chung Wai Kit・香港)、厳格なしつけを強いる父親と娘とのゆがんだ関係が、どんでん返しで明らかになるホラー作品『エマの晩餐』(Chuang Ching-Shen・台湾)など、アジア勢から5本が優秀作品賞を獲得。

 その他では、女子校生二人の密やかな思いを、若者らしい感性で美しく描いた『Sin Decir Nada(何も言わずに)』(Diana Carolina Montenegro Garcia・コロンビア)、空から次々に落ちてくる男たちが繰り広げる不思議な空想ドラマ『nenn mich einfach Tobi B.(トビーBと呼んでくれ)』(Felix Stienz・ドイツ)が優秀作品賞に選ばれました。


6.アートにアニメに若い世代の力作揃う

 映像に特殊効果を重ね合わせたり、CGを使った編集で独自のイメージを創作したビデオアートや、さまざまな手法によるアニメーション作品も多数応募されましたが、これらの作品群では特に若い世代の活躍が目立ちました。

 ビデオアートでは、3つの風景の記憶から実写映像を加工して一冊の写真集のように編集、不思議な映像空間を創造した『記憶全景』(横田将士・25歳・埼玉県/優秀作品賞)、さまざまな合成映像のコラージュと効果音で日常感覚の憂鬱と発散を描き出した『はじまりはまつ毛の先から』(乘田朋子・23歳・山形県/佳作)、死への誘いの甘美な歌に導かれて天に昇る魂を表現したアート作品『laid in earth』(薩摩浩子・21歳・神奈川県/佳作)、現代の都市化現象をテーマに、経済成長とその裏にあるものを対比させたアート作品『城“式”化』(Yu Kai・24歳・中国/佳作)など。

 アニメでは、都市伝説上の怪人をテーマに、アナログ手法で作り上げたミュージッククリップ・アニメ『頭に回るは笑い声』(高嶋友也+古都・学生・東京都/佳作)、擬人化した数字のキャラクターによって格差社会を描いた『ステイタス』(新海岳人・26歳・東京都/佳作)、退屈な会議中に落書きしたイラストや会議資料の文字が、紙から飛び出して走り回る愉快なショートアニメ『とりっくわーど』(New-Days・学生・東京都/佳作)など、アート、アニメとも大学生や20代の力作が入賞作品の大部分を占めました。


7.クラブ活動、自由研究にビデオが大活躍

 学校の放送部やその他のクラブ活動、課外授業などでビデオを活用したグループ研究が活発に行われています。今回の入賞作品の中にも小・中・高校のそんな優れた活動成果が見られました。

 新聞で自校生徒たちの通学電車の利用マナーが悪いと報道され、これに疑問を抱いた北海道の高校放送部が駅員や乗客の証言を聞き、新聞社に逆取材して真相を究明していく『高校生は乗車を妨げたのか』(北海道深川東高等学校放送局・北海道/優秀作品賞)、長野県の高校放送部が、自校の“憲法”制定を機会に、校内で日本国憲法に関する知識の認知度を調査したところ、正解率は生徒が12.7%、先生も40%どまりだったなど、日本における憲法認識の問題点をユーモアたっぷりに浮き彫りにした『12.7%』(長野県梓川高等学校放送部・長野県/優秀作品賞)、兵庫県の中学校・生物理科研究班が、棚田に生息するタガメの生態を丁寧に記録した『タガメ −飼育と観察をとおして−』(姫路市立菅野中学校生物・理科研究班・兵庫県/優秀作品賞)や、札幌市の小学校の生徒達が日本の観光名所の「三大がっかり」のひとつといわれた札幌時計台について、多面的に取材し、レポートした『我が町自慢 町のシンボル時計台』(札幌市立北都小学校・北海道/佳作)などが、その代表作です。


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