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アーカイブ情報1978年から2009年にわたり日本ビクター(株)主催で開催された「東京ビデオフェスティバル」の情報です。
イラク、パレスチナ、ニューヨークに住むアラブ人の若者3人が語る、米国の戦争政策について率直に主張し、祖国の平和を願っている様子を描いたドキュメンタリーです。
この作品について最初に口火を切った羽仁進氏は、「私たち日本人はテロリストは特殊な人と感じていますが、この作品では、自然でおだやかな映像で“テロリストは特殊なものではない”と考えているイスラムの世界に生きる青年の心情が描かれている」と述べました。
また、佐藤博昭氏は「さまざまな環境にある人の映像を観て、その考えを知ることに、市民ビデオのジャーナリズムがある」と評価しました。 これを受けて壇上に招かれた作者のギジェルモ・コスタンソさん(アルゼンチン)は、「アルゼンチンで私たちが知る情報は、アメリカやヨーロッパからもたらされる情報が多い。そこで、中東の問題について、中東から得た情報で作品にしたかった。悪い面でなく、もっと良い面にカメラを向けたいと思ったんです」と制作の動機を述べました。 大林宣彦氏は、この作品以外にも「世界各地で暮らす人々の切実なメッセージが集まっているのがこのTVFなのです」と締めくくりました。
漢字の「とめ、はね、はらい」などの基準があいまいで、テストの採点にかなりのバラツキがあることに疑問を持った高校生たちが、小・中・高の先生や教育委員会、文部科学省の担当者らに次々とインタビューを試み、問題点の本質に肉迫した作品です。
高畑勳氏は、「高校生の質問に対して、先生が答えに窮しているところがほほえましく描かれ、制作者の高校生たちに脱帽。傑作です」と讃えています。
また、「きちんとした漢字でないとダメなら、ぼくは1本の小説も書けない。正しく学ぶことは大切だと思うけれど、この作品に描かれているのが日本の教育の縮図。もっと大事なことを忘れているんじゃないかという気がしました」とは、作家の椎名誠氏。さらに羽仁進氏は「口ごもったりする先生方に人間性が感じられ、好意を感じますね。先生も人間だなというところまで、インタビューを通して持って行ったところがすごい」と、高く評価しました。 制作した長野県梓川高等学校放送部の生徒の皆さんは、「最初は筆順の問題から作品をつくろうとしたんです。正しい書き方はどこにあるのかという内容です。そんな中で、はね、とめ、はらいというのは、正しい基準があるのだろうか、というところから作品が生まれました」と動機を話しました。また、エピソードとして「取材の意図を理解してもらった上でインタビューをお願いした先生が、作品が完成した時に“使ってもらっては困る”とNGを出して、急遽、別の先生のインタビューに差し替えたこともありました」と、舞台裏を披露しました。 大林宣彦氏は「素人の高校生がつくる作品だから、アマチュアのビデオ作品と思うでしょうけど、テレビ局の腕のいいディレクターやインタビュアーがそろってもこんなすごい作品はつくれません」と、羽仁進氏は「この作品を観て思ったけど、先生を変えるのは生徒だと思う。このインタビューが登場した先生をいい先生にした。これは大発見だね」と、異口同音にほめたたえました。
こうありたいという願いと、社会に出てそれを貫いていけるかという不安。ゆれ動く心の内を、同世代の主人公が日常空間の中でてらいなく演じ、まねのできないカメラワークでこれを確かに描き切った作品です。
椎名誠氏は、「出演者が天真爛漫に演技をしている。撮る人、撮られる人の息の合った映像を羨望を持って観ました。作品づくりは、テーマとモチーフと表現力が重要。私もこんな小説を書きたい。ディテールがきっちり描かれている映像の純文学だと思った」と絶賛。
同じく大林宣彦氏も、「映画作家としてこの作品と作者に嫉妬している。頭の1カット目から引き付けてはなさない」と賞賛しました。 作者の内田セイコさんは、作品について、「出演者には、しゃべって欲しい台詞だけを伝えて自由に演技してもらいました。細かなしぐさについても、ほとんど本人の自由な演技なんです。この作品は演技した彼女=私自身で、作品の中で彼女が両親に宣言したことは、私自身が私の両親に宣言したかったことで、それを作品にしました」と話しました。 佐藤博昭氏は「昨日、作者の内田さんに会い、いろいろ話をすることで作品を理解することができました。作品を観た時は、彼女を投影した主人公の考え方はリアルで息苦しかった。だから、積極的に共鳴できなかった。でも、それでいいんだなと思いました。みんながみんな共鳴する必要はない。この作品のとびきりの素晴らしさに共鳴できる人がきちんと評価できればいい。アートなんかも同じだと思う。このTVFは作品を観るだけで完結するのではなく、審査委員を含め、この会場に集まったみなさんと作者との交流によって成立するイベントだと改めて思いました」と述べました。 最後に小林はくどう氏は「自分なりのメッセージを自分でつくれる自由なメディアがビデオ。来年は、どんな作品が寄せられるのか、楽しみにしています」とTVF2007トークフォーラムを締めくくりました。 |